知的財産権

オンラインゲームのコンプライアンス審査の要点(知的財産権篇)

福沢史可

 近年、オンラインゲーム業界が急速に凄まじい発展を遂げているが、その発展の裏で一連のコンプライアンスの問題も日増しに浮き彫りとなってきています。中でも、オンラインゲームに係わる知的財産権のコンプライアンスの問題は特に顕著であり、関連会社の担当者も悩んでいるとの相談がありました。

 オンラインゲームは画像、音楽、文字とコンピュータソフトウェアの集合体で、構成要素も複雑であるため、知的財産の観点からコンプライアンス審査するに当たり、どのようにすれば良いでしょうか?

呉月琴

 私たちも顧問先にこのような質問を受けた際に、いつも「要素解体法」という方法をお客様に紹介しています。ゲーム企業がオンラインゲームの知的財産権のコンプライアンス審査を行う際は、この「要素解体法」を用いて、解体した創作の各要素について、著作権法、商標法、特許法、不正競争防止法などそれぞれの視点からリスクの徹底した調査を行うことが重要です。以下ご説明させていただきます。

著作権侵害のリスク審査

著作権法上の観点から、オンラインゲームに含まれる要素は以下の通り解体できる。

オンラインゲームに含まれる要素
  • 図形の要素:ゲームロゴ、ゲームキャラクター、ゲームツール、ゲームシーン、ゲームマップ、ゲームの静止画面、ゲームに使用するフォント。
  • 文字の要素:ゲームのストーリーの背景、ゲームのミッション、ゲームキャラクター、スキルなどの文字による紹介、ゲームのプロット及びキャラクターの台詞、ナレーションなど。
  • 音楽の要素:BGM、間奏曲、音響効果など。
  • ビデオの要素:ゲームの繋ぎ用動画及び動画の特殊効果、ゲーム全体の進行画面など。
  • コンピュータソフトウェア:ゲームプログラムなど。
  • 思想の要素:ゲームのルールと説明、ゲームの画面レイアウト(ウィンドウやツールの設置位置)など。

 オンラインゲームに含まれる要素は複数あり、権利侵害のパターンも複雑である。例えば、ゲーム中の文字の要素は他の文字著作物を侵害する可能性もあれば、他の映画や映画製作に類似した方法で創作された著作物(中国語:類電作品)の翻案権を侵害する可能性もある。ゲームの繋ぎ用動画が文字著作物の翻案権を侵害する可能性もあれば、映画製作に類似した方法で創作された他の著作物の著作権を侵害する可能性もある。また、著作物のタイプによって、著作権侵害認定における「実質的な類似」の認定基準も違ってくる。そのため、著作権侵害のリスクを全面的にかつ徹底的に調査しても完全に排除することは難しい。

しかし、以下の調査方法で、ある程度リスク回避を行うことはできる。

会社がまず内部調査を行い、初歩的にリスク調査を実施

  • デザインの過程で参考にしたり使用したりした要素及び要素の出所をリストアップし、調査範囲を初歩的に絞る。当該範囲の中で、係る要素が有する知的財産権の権利状況を更に調査する。条件が整っている企業は、ゲームの商品企画、ゲームのタイプやスタイルなどに基づき、自社オリジナルまたは権利取得済みのゲーム素材用データベースを作ることができる。
  • 他人の著作物や商標を使用する場合は、権利の帰属状況を調べてから、交渉、協議によって権利付与を受ける必要があることに留意すべきであり、権利付与を受けて使用する権限の範囲、方式、地域及び期限に注意して審査をすべきである。例えば、複製権、情報ネットワーク伝播権、翻案権が含まれるかどうかなどである。

各要素について、同類の著作物の類似性検査を実施

文字の要素について

 文字の著作物の著作権侵害判断には一般的に「抽象的概括法」を用いる。文字の著作物に関しては、最下層の文字表現だけが表現を構成するのではなく、上層の物語のプロット、キャラクターの相互関係と発展が十分に具体的な場合も表現を構成する。ただし、このような上層の表現は層ごとにまとめてから総括する必要があり、比較的主観性が強く、一般的な技術的手段では類似性の対比を行うことができず、往々にして訴訟の争点にもなる。初歩的な調査という視点から、少なくとも「文字上の」(中国語:字面)表現については類似性検査を行うことが重要である。検査ツールは第三者の文字の重複チェック用ソフトウェアを使用することができる。

図形の要素について

  • 図形の要素についての類似性検査は、まず図形の要素にある独創性の部分を抽出すべきであり、共有の要素を使用しても美術の著作物に対する著作権侵害を構成しない。
  • 図形の類似性検査は画像検索エンジンを使用することができる。例えば、「バイドゥ画像認識(中国語:百度識図)」(https://graph.baidu.com/pcpage/index?tpl_from=pc)。
  • 図形の要素のうち、フォントについての著作権侵害のリスクは比較的発見しやすく、各フォントデータベースの公式サイトで、使用したフォントが有料フォントであるかどうかを調べることができる。

例として、次のサイトを挙げる。

方正字庫(英語:FounderType)http://www.foundertype.com
漢儀字庫(英語:Hanyi Fonts)http://www.hanyi.com.cn
文鼎字庫(英語:ARPHIC)http://www.arphic.com.cn
華康字庫(英語:DynaFont)http://www.dynacw.cn
Fonts.com(中国語:蒙納)https://www.fonts.com

音楽の要素について

  • 現在、司法実務では、音楽著作物の「実質的な類似」についてまだ認識が統一されていないが、「8小節」が重複する、「主和音はほぼ同一で、かつ属和音は60%が類似する」などの認定基準が存在している。[i]ゲームで使われる音楽には比較的完全なBGMが含まれているだけでなく、比較的短い特殊効果音も含まれている。第三者音楽識別ソフトウェアの音楽データベースのデータに限りがあり、かつ類似対比のアルゴリズムが未知である状況では、第三者ソフトウェアを採用してリスクの徹底した調査を行う意味はさほど大きくない。
  • 他人の音楽著作物を使用する場合は、国内外の音楽著作物の著作権を団体として管理している中国音像著作権管理協会(http://www.cavca.org/zpk.php)などの組織を通じて、係る著作物の情報を照会し、授権を受けることができる。

[i]  李文傑による「ポップミュージック楽譜の剽窃に関する実質的な類似の認定基準についての研究」を参照、「法制と社会」2014年2号掲載。

ビデオの要素について

 ゲームにおける繋ぎ用動画及びビデオ特殊効果、ゲームの全体的な進行画面などは映画製作に類似した方法で創作された著作物と認定することができ、これらのビデオの要素は技術を通じて広範囲で類似性の徹底した調査を行うことが比較的難しいため、競合品ゲーム、開発者が創作する際に参考にした同タイプのビデオ、映画又は映画製作に類似した方法で創作された他の著作物、文字著作物などに対して回避設計を行うよう提案する。

コンピュータソフトウェアについて

  • 中国著作権保護センター(中国語:中国版権保護中心)のウェブサイト(http://www.ccopyright.com.cn)を通じて、登録済みのコンピュータソフトウェアを照会することができる。照会結果には具体的なプログラム内容は示されないものの、係るプログラムのソースコードの著作権者を特定できれば、授権を受けるために当該著作権者に連絡してコミュニケーションを取るか否かを引き続き検討することができる。
  • 司法実務において、コンピュータソフトウェアの権利侵害についての判断で広く使用されている規則は「コンタクト+実質的な類似+合理的な解釈の排除」である。[i]普通のコンピュータソフトウェアと比べると、ゲームソフトウェアの特徴は、プログラミングによって、ゲームのプロセスとともにシーン、ミッション、キャラクター、操作画面が変わり続けるという効果にある。客観的に言うと、独立して開発された2つのゲームソフトウェアには、ゲームのプロセス、内容などが著しく類似する可能性はない。よって、ゲームのプロセス、内容が著しく類似し、かつ被告が合理的に解釈できない場合は、ゲームソフトウェアの間に実質的な類似があると認定される。
  • 通常、ゲームの権利侵害に適用する合法性についての抗弁事由には次のものが含まれている。(1)ソフトウェアは被告が独立して開発したものである。(2)被告のソフトウェアにはその他の合法的な出所がある。(3)ソフトウェアにおいては、選択することのできる表現方式に限りがある。[ii]よって、紛争に対処するために、ソフトウェア開発を行う際には、開発の過程における履歴の保存に注意すべきである。

[i]  宋健、顧韜による「コンピュータ・ソフトウェアの権利侵害の認定における若干の問題に関する論述」を参照、「人民司法」2014年13号掲載。

[ii] 「コンピュータ・ソフトウェア保護条例」第29条:「ソフトウェア開発者の開発したソフトウェアが、選択に供することのできる表現方式に限りがあるために、既に存在しているソフトウェアと類似する場合は、既に存在しているソフトウェア著作権の侵害を構成しない。」


呉月琴

ここの注意する点としては、技術的な手段で検索して導き出した「類似する」著作物は法律上の意味での「実質的な類似」に等しいわけではなく、念のため、やはり類似度が比較的高い著作物について一定の回避設計を行うべきです。

思想の要素について

  • ゲームのルール及び説明は思想に属し、著作権としての保護を受けない。但し、ゲームのルールが一定の程度まで具体的になり、独創性のある表現となった場合には、依然として著作物と認定される可能性がある。よって、ゲームの具体的なルール及び説明については、文字の要素と同じく、やはり類似性の検査を厳格に行う必要がある。ここで言う検査では、範囲を同じタイプのゲームに限定することができる。注意すべき点としては、類似する部分が特定のコンテクストのもとで選択することのできる、限りのある表現方式である場合、著作権侵害には該当しない。
  • 司法実務では、ゲーム画面のレイアウト(ウィンドウ、ツールの設置位置)は思想として認定される傾向にあるため、一般的には著作権侵害のリスクはない。

商標権侵害のリスク審査

オンラインゲームの商標権侵害のリスク審査は、以下の4ステップに分けられる。

商標権侵害のリスクが存在しうる要素をピックアップする。
その要素には次のものが含まれる。

  • 文字の要素:ゲームの名称、ゲームキャラクターの名称、特定の場所の名称、ツールの名称、スキルの名称。
  • 図形の要素:ゲームソフトウェアのアイコン、ゲームアプリのアイコン、ゲームキャラクターなどの図形標識。
  • 音の要素:ゲームの音響効果又はBGM。

会社の業務範囲と将来の開発計画に関連のある商標区分を確定

  • ゲーム製品及び係る服務の商標登録区分に含まれる主なもの:第9類(ゲームソフトウェア)、第28類(ゲーム機)、第38類(通信、テレビ番組の放送サービス)、第41類(オンラインゲーム)、第42類(ソフトウェアに関連するサービス)など。
  • ゲーム派生品の区分に含まれるもの:ビジネスプランとブランドの価値を総合的に考慮すると、ゲーム製品から派生した区分でよく見られるものには、第16類(文房具及び事務用品)、第18類(スーツケース及びリュックサック)、第25類(被服、履物、帽子)、第28類(遊戯用器具及び玩具)などがある。

「中国商標網」の商標照会システムにアクセスして商標の類似検索を実施

自らの要素の使用が商標的使用になるかどうかを判断

  • 商標的使用とは即ち、商標の使用が商品又はサービスの出所を識別する役割を果たすことである。商標的使用は、商標権侵害判定の主な要素である。他人の商標を使用する目的が、係る商品又はサービスその情報を説明するためのものであるか、又は係る商品若しくはサービスの成分、性質、用途、機能、特徴、品質、重量、数量、若しくはその他の特徴を説明するためのものである場合は、商標的使用には当たらない。「モノポリー(中国語:大富翁)」事件[i]を例に挙げると、裁判所は最終的に、「盛大富翁」標識の使用行為は「大富翁」商標権の侵害を構成しないという判決を下し、原告による使用はゲームの対戦目的、ルール、特徴及び内容を概括又は説明するためのものであることを理由とした。
  • しかし、商標的使用であるか否かの判断には依然として主観的判断というリスクが存在しており、比較的安全なやり方としては、やはり商標検索の結果に基づいてゲームの商標のデザインを調整することである。

[i] 上海市浦東新区人民法院(2006)浦民三(知)初字第125号民事判决書;上海市第一中級人民法院(2007)滬一中民五(知)終字第23号民事判决書を参照。

特許権侵害のリスク審査

オンラインゲームに係る特許権侵害のリスク審査については、次の3つの視点からのアプローチが可能である。

自らが所有する技術についての審査

  • まず、ゲーム分野の特許についての状況を調査して検討し、企業が自ら所有する技術イノベーションのポイントと関連度が比較的高い特許を見つけ出す。特許検索を行える主なデータベースには次のものが含まれる。
    • 中国国家知識産権局のデータベース

http://www.cnipa.gov.cn/zwfwpt/index.htm

  • 欧州特許庁(EPO)のデータベース

https://www.epo.org/searching-for-patents.html

  • アメリカ合衆国特許商標庁(USPTO)のデータベース

https://www.uspto.gov

  • ゲーム開発は主にコンピュータプログラムのプログラムに関わっており、関係する可能性のある特許には次のものが含まれる。
    • ハードウェア類のコンピュータプログラムの最適化:コンピュータのソフトウェアプログラムとコンピュータは相互連結によってハードウェアの最適化の効果を実現し、即ち、技術的な手段を利用して、技術的な問題を解決し、技術的な効果を生み出すもので、法的には、当該発明特許の出願は特許による保護を与えることができる客体であることを否定できない。例えば、外付けデバイス、画像システム、通信システムなど。
    • ゲームにおける新たな方法、新機能:例えば、ゲームの操作方法、プレーヤー同士が連動する方法、トレードシステム、チートの防止方法など。
    • GUIの図形ユーザーの画面:ゲームにおいてHMI機能がある図形ユーザーの画面は、意匠特許の保護を受けることができる。
  • 特許権侵害の判断は複雑であるため、ターゲットとする特許を定めた後、まずはターゲットとした特許とそのファミリー特許の法的ステイタス、及び無効となる事由が存在するか否かを審査する。当該特許に既に法的効力がなくなっているか、又は無効となる事由が存在すれば、特許権侵害となるリスクはない。
  • 有効な特許権に対する侵害の可能性を判断するには、自らが所有する技術とターゲットとした特許の独立請求項における全ての技術的特徴を対比し、特許権侵害の判断には、オールエレメントルール、均等論を採用すべきである。

使用許諾を得た特許の情報をフォロー

 他人の特許技術を使用するには適法なルートで適時に特許の使用許諾を受けなければならず、その上で、それらの特許についてのデータベースを構築して適時に情報を更新することで、特許の使用許諾が満期を迎えた後も使用して特許権を侵害するリスクを回避する。

ハードウェア機器の使用における特許調査

 ゲームを開発、運営する過程においては、例えば、本体、外付けデバイスなど、必然的にハードウェア機器の使用に関わってくる。自らが開発したものではないハードウェア機器を購入する際は、ハードウェア機器に特許権が付与されていないかどうか、及び他人の特許権を侵害する可能性がないかどうかを調査、確認し、他人の特許権を侵害するパーツを使用したことにより、侵害責任が発生することを避けるべきである。

不正競争のリスク審査

 「不正競争防止法(中国語:反不正当競争法)」第6条[i]の規定によると、一定の影響力を持つオンラインゲームと同一又は類似のゲーム標識又はゲーム装飾を使用して、2つのゲームの間に特定の繋がりがあるかのようにゲームのプレイヤーに誤認させることは、不正行為を構成する可能性がある。この他、同法の第2条によると、[ii]上記で言及したゲームのルールは著作権法の保護を受けられないが、関連公衆の間で使用され、既に一定の影響力を有しているゲームのルールが参考という範疇を超え、プレイヤーに混同を招いた場合は、「不正競争防止法」の基本原則に反すると認定され、これにより不正競争を構成すると認定される可能性がある。しかし、不正競争行為の判定には不確定性が更に大きい。リスクの徹底した調査という視点から、当職らの提案としては、オンラインゲームの開発者がゲームの開発を行う際は剽窃を根絶し、知名度のあるゲームを参考にして真似る場合は、区別ある回避設計を行うべきである。


[i] 「不正競争防止法」第6条:「事業者は、次の号に掲げる混同行為を実施して、他人の商品である、又は他人と特定の繋がりがあるものと人に誤認させてはならない。(1)他人が一定の影響力を有する商品の名称、包装、装飾などと同一又は類似の標識を無断で使用すること、(2)他人が一定の影響力を有する企業名称(略称、商号などを含む)、公共企業体の名称(略称などを含む)、姓名(ペンネーム、芸名、翻名などを含む)を無断で使用すること、(3)他人が一定の影響力を有するドメインネームの主体部分、ウェブサイトの名称、ホームページなどを無断で使用すること、(4)他人の商品である、又は他人と特定の繋がりがあるかのように人を誤認させるに足りるその他の混同行為。」

[ii] 「不正競争防止法」第2条:「事業者は、生産経営活動において、自由意志、平等、公正、誠実信用の原則に従い、法律及び商業道徳を遵守しなければならない。」

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しかちゃん
東京理科大学知的財産専門職大学院(MIP)卒。 元大手生活用品メーカーの知財マン、後に事業家に転身。 知財マンとして在職中、商標が専門、広告法や模倣品対策も携わり、語学能力を生かし、中華圏と日本の架け橋の役割を担っていた。現在華誠グループの一員として日本企業の中国事業を法律な観点でサポートしている。 このブログでは中国事業の法律問題について発信している。 ワーカホリックであり、スピーディーな対応を重視している。 何かサポートできるものがあれば、お気軽にご連絡ください。