CHINA IP WEEKLY|DEEP DIVE
目次
今週の結論:知財を「研究成果の出口」ではなく、事業化の設計要素に置く
中国は、研究開発と産業化を一体で進める国家方針の中に、営業秘密、特許のオープンライセンス、特許・標準のポートフォリオ設計を明示しました。中国で共同開発、技術導入、製造委託を行う日本企業は、出願段階だけでなく、契約・利用・標準化までを同時に確認する必要があります。
2026年10月21日、中国共産党中央弁公庁・国務院弁公庁は、科学技術イノベーションと産業イノベーションの「深度融合」を促進する意見を公表しました。これは特許法や審査実務を直ちに変更する通知ではありません。しかし、技術の研究開発から事業化までを一つの流れとして管理し、その中に知的財産と標準化を組み込む方向を、国家レベルで明確にした点が重要です。
DEEP DIVE|研究開発・技術移転・標準化
最重要ニュース:研究開発から事業化まで、知財を同時設計する方針へ
何が変わるのか
意見は、産業での利用目標が明確な国家科学技術計画プロジェクトについて、原則として企業が主導して実施し、成果の事業化も企業が主導する考え方を示しました。大学・研究機関の成果を、技術移転、ライセンス、現物出資などで活用することも掲げています。知財部門にとっては、研究成果が生まれた後に権利化を検討するのではなく、開発テーマの選定、共同研究、事業化先の選定時から関与する場面が増えることを意味します。
さらに、営業秘密と新業態・新領域の知的財産保護を強化し、特許オープンライセンス制度を全面的に実施する方針を示しました。国家の重要科学技術プロジェクトでは、特許の配置と標準の配置をあわせて強化する考え方も明記されています。特許、ノウハウ、データ、標準のどれを公開・共有し、どれを管理対象として残すかを、事業モデルと結び付けて判断する重要性が高まります。
なぜ日本企業に重要か
中国の研究機関、大学、顧客、製造パートナーと共同開発を行う場合、特許の帰属だけでは足りません。背景技術と新たに生じる成果の区分、秘密情報の範囲、改良技術を利用できる地域・分野、第三者への再許諾、論文や展示会での公開タイミングまで、事業化の経路と合わせて決める必要があります。
特に集積回路、先端材料、バイオ製造、人工知能などは、今回の意見で重点領域として挙げられています。こうした領域では、特許出願だけでなく、営業秘密の管理、製品仕様や標準への関与、技術移転の条件を一体で点検しておくと、後の交渉や紛争対応の選択肢を確保しやすくなります。
今週から準備すべきこと
まず、中国で進行中または予定している共同研究、試作、技術導入、製造委託を一件ずつ棚卸ししてください。そのうえで、特許にする技術、営業秘密として管理する技術、取引先に開示する技術を区分し、担当者と保管場所を明確にします。共同開発契約では、成果の帰属だけでなく、改良技術、出願・維持費、実施地域、再許諾、秘密保持と公表の扱いを確認しましょう。
オープンライセンスや標準化が関わる案件では、独占実施の前提と矛盾しないか、共同保有権利の処分に制約がないか、標準必須特許となり得る技術の開示ルールを把握しているかも確認項目です。今回の意見は新たな一律の手続義務を設けるものではありませんが、中国での技術活用に関わる知財を「出願管理」だけで済ませないことが実務上の要点です。
原典:科学技術イノベーションと産業イノベーションの深度融合を促進する意見(2026年10月21日) / 科技部による公式解説
政策の読み方:特許・標準・営業秘密を分けずに扱う
今回の意見で注目すべきは、知財保護、特許の活用、標準化を別々の政策課題としてではなく、技術を産業化するための一つの仕組みとして扱っている点です。例えば、共同研究の成果が特許で保護される場合でも、製造条件や学習データ、顧客情報などは営業秘密として保護する方が適切なことがあります。一方、相互運用性や市場展開が重要な技術では、標準への関与やライセンス方針が権利価値に影響します。
日本企業は、事業・研究開発・知財・法務の各担当者で、「何を独占し、何をライセンスし、何を秘匿し、どの標準に参加するか」を案件ごとに一枚の整理表へ落とすと有効です。中国側パートナーの資金調達、成果転化、政府プロジェクト参加の計画も確認すると、求められる権利処理を早めに把握できます。
日本企業向け:5項目の実務チェックリスト
- 案件の出口を先に決める。 自社実施、共同事業、第三者ライセンス、技術移転のどれを目指すかを、研究開始時点で仮置きします。
- 背景技術と改良技術を区別する。 中国側パートナーに提供する技術、共同で生じる技術、各当事者が従来から持つ技術を、契約と技術資料の両方で対応付けます。
- 営業秘密の運用を可視化する。 アクセス権限、持出し、クラウド保管、退職・委託終了時の返却を、特許出願の検討と並行して点検します。
- オープンライセンス・標準化の影響を確認する。 権利の独占性、共同権利者の同意、標準化団体の知財ポリシーと整合するかを事前に確認します。
- 中国での成果転化情報を追う。 現地パートナーが関わる重点プロジェクト、技術取引、展示会、特許プールの動きは、将来のライセンス交渉や競合分析の手がかりになります。
QUICK UPDATES|関連する短報
今週あわせて確認したい2件
江蘇省の「AI×知財」:予備審査・データ知財を一体で運用
CNIPAの10月21日発表では、江蘇省が人工知能と知財の双方向活用を進め、AI関連の41の特許分類で予備審査ルートを整備していることが紹介されました。対象案件では発明特許の権利化期間が22か月から3か月へ短縮されたとされています。これは全国一律の手続変更ではなく地方の取組ですが、AI、データ、特許、侵害監視をまとめて扱う運用例として注目されます。
地理的表示:保護模範区の整備を3年間で推進
CNIPAは10月22日、2026年の国家地理的表示保護模範区の作成リストを公表しました。作成期間は2026年10月から2029年10月までの3年間で、対象地域には保護制度、執行、周知、協力体制の強化が求められます。中国の地域ブランドや食品・酒類などの地理的表示と関わる事業では、対象地域の取組と表示ルールを継続的に確認してください。
本文の重要用語:日中対訳リスト
本文に登場する実務上の重要用語だけを整理しています。
| 日本語 | 中国語(簡体字) |
|---|---|
| 科学技術イノベーションと産業イノベーションの深度融合 | 科技创新和产业创新深度融合 |
| 科学技術成果の事業化 | 科技成果转化 |
| 技術移転 | 技术转让 |
| 特許オープンライセンス | 专利开放许可 |
| 特許ポートフォリオ設計 | 专利布局 |
| 標準ポートフォリオ設計 | 标准布局 |
| 営業秘密 | 商业秘密 |
| 高価値発明特許 | 高价值发明专利 |
本記事は、公開されている一次情報に基づく一般的な情報提供です。共同研究、技術移転、ライセンス、標準化への参加、営業秘密の管理は、取引形態と技術内容によって対応が異なります。具体的な案件は中国法・契約実務に詳しい専門家にご相談ください。

