2021 年度華誠代表知財案件

「ポリオレフィン製微多孔膜」発明特許無効行政訴訟事件

——(2019)京 73 行初 12291 号

明細書の十分な開示とは、当業者が明細書における関連の記述に従い、かつ自らの備える知識と結び付ければ、発明の技術案を実施し、その技術的課題を解決 し、予期する技術的効果を生み出すことができる、ということを指すものである。

事件紹介

  本件特許はリチウムイオン二次電池用セパレータのポリオレフィン製微多孔膜に関するもの である。請求項では、フィルムの熱収縮率、引張伸び、引張強度およびその他の複数の構造的
特徴を限定することにより、フィルムと電極の閉じ込めに優れ、形成される電池の巻きの収納性が良好であるという技術的効果を実現した。特許の明細書には、ポリオレフィン製微多孔膜の製造工程およびパラメータ測定結果が詳細に記載されている。

  本件は無効審判請求人が国家知識産権局の下した特許の有効性を維持する第 40920 号無効決 定を不服として北京知識産権法院に提起した行政訴訟である。

  本件の争点は、明細書における開示が十分であるか否かであり、次のことを含む。
  1)特許の明細書でポリオレフィン製微多孔膜の製造方法が十分に開示されているか。
  2)明細書の比較例と実施例との製造パラメータの差異に基づいて、当業者が相応の工程パラメータを調整して請求項の保護範囲内のすべての技術案を得ることができるか、すなわち明細書に請求項の全範囲を実現するすべての実施例を記載する必要があるか。
  
  裁判所は審理を経て、次の認識を示した。
  
  まず、本特許の明細書にはポリオレフィン製微多孔膜の製造に使用する原料と配合比率、製造設備、製造方法および工程パラメータが記載されており、なおかつ実施例と比較例の相互比較を通じて、工程パラメータがポリオレフィン製微多孔膜の性能パラメータに与える影響を検証できるため、当業者は本分野の公知技術を踏まえたうえで、明細書の記載と結び付けて、相応の工程パラメータを調整し、請求項におけるポリオレフィン製微多孔膜を製造することができる。
 
  次に、比較例と実施例の工程パラメータの差異は、当該工程パラメータがポリオレフィン製微多孔膜に影響を与えることを前提に、当該工程パラメータを調整することにより、請求項 1 におけるポリオレフィン製微多孔膜を製造できることを物語っている。最後に、無効請求人は、本特許の請求項 1 の保護範囲内にあるものの実施例に記載されていない具体的な数値で発明の目的を実現できないことを証明する、相反する証拠を提出していない。よって、無効審判請求人の訴訟上の請求を支持せず、法により係争決定を維持する。

  本件からの示唆としては、説明書の開示が十分であるか否かを判断する場合は、当業者の視点から、当業者が備える知識を踏まえ、明細書における関連の記述に従って発明の技術案を実現できるか否かを総合的に判断しなければならない。
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しかちゃん
東京理科大学知的財産専門職大学院(MIP)卒。 元大手生活用品メーカーの知財マン、後に事業家に転身。 知財マンとして在職中、商標が専門、広告法や模倣品対策も携わり、語学能力を生かし、中華圏と日本の架け橋の役割を担っていた。現在華誠グループの一員として日本企業の中国事業を法律な観点でサポートしている。 このブログでは中国事業の法律問題について発信している。 ワーカホリックであり、スピーディーな対応を重視している。 何かサポートできるものがあれば、お気軽にご連絡ください。