2021 年度華誠代表知財案件

パラメータの特徴を含む製品特許の新規性判断


——(2019)最高法知民終 152 号

パラメータの特徴を含む製品特許の新規性については、当該パラメータの特徴が製品の特定の構造および/または組成を暗に含んでいるか否かを考慮し、技術案に
おける当該構造および/または組成の機能または効果を踏まえて、パラメータの特徴の実質を全体的に把握した上で、対比文献と総合的に比較して判断しければならない。

事件紹介

本件は、リチウム電池用三元系正極材料、すなわちNi-Mn-Co三元系リチウム遷移金属酸化物材料に関するものである。

係争特許の請求項1はリチウムイオン電池に用いられる高 Ni 正極材料に関するものであり、 当該請求項は、金属酸化物の元素組成比の一般式を限定しているほか、さらに「当該酸化物粉末を、少なくとも500°Cで、かつそのうち、当該粉末の形態が焼結によって変化する温度未満の温度で、空気中で 5〜10 時間加熱したときに10%未満で増加する可溶性アルカリ含有量SBCを有する」という技術的特徴(以下、「平衡 SBC」という。)と特段に限定している。

無効審判請求人が提出した従来技術の証拠1では、請求項1と同一の金属酸化物の一般式および当該金属酸化物に水溶性アルカリ不純物が基本的に含有されない旨の内容が開示されている。無効審判請求人は、「水溶性アルカリ不純物が基本的に含有されない」とは、即ち請求項 1 に限定された「平衡 SBC」という特徴と均等であるため、請求項 1 のすべての技術的特徴は証拠 1 にて開示されていることにより新規性を具備しない、と主張した。

特許局復審・無効審理部は審理の結果、証拠 1 と比較して、請求項 1 は新規性を具備すると認定した。その理由は次の通りである。本特許における平衡 SBC が反映しているのは正極材料の表面特性であり、当該平衡 SBC は材料の形態、有効表面積および組成に依存している一方、証拠 1 にて述べられている「水溶性アルカリ不純物が含有されない」は、正極材料に第二相の不純物が含有されないことのみを説明でき、形態、イオン状態、結晶構造の安定性などの正極材料の表面特性を説明できない。よって、証拠 1 の「水溶性アルカリ不純物が基本的に含有されない」を本特許で限定されている平衡 SBC と均等視することはできない。

 本件は、パラメータの特徴が従来技術にて開示されているか否かを推定するという新規性の問題に係るものである。審査指南の規定によれば、パラメータの特徴によって限定された製品クレームについては、当該パラメータの特徴が製品の組成、構造の限定を暗に含んでいるか否かを考察しなければならない。本件において、パラメータの特徴である「平衡 SBC」は実質的に製品の特定の構造(表面特性、形態など)を表現しており、対比文献にて同一のパラメータの特徴が開示されておらず、対比文献に同一の表面特性の記述があることも証明できない状況では、対比文献にてパラメータの特徴が開示されていると推定することはできない。

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しかちゃん
東京理科大学知的財産専門職大学院(MIP)卒。 元大手生活用品メーカーの知財マン、後に事業家に転身。 知財マンとして在職中、商標が専門、広告法や模倣品対策も携わり、語学能力を生かし、中華圏と日本の架け橋の役割を担っていた。現在華誠グループの一員として日本企業の中国事業を法律な観点でサポートしている。 このブログでは中国事業の法律問題について発信している。 ワーカホリックであり、スピーディーな対応を重視している。 何かサポートできるものがあれば、お気軽にご連絡ください。