——(2021)京 73 行初 5053 号
特許法第 26 条第 3 項の規定によれば、特許の明細書における開示は、当業者が 実施できる程度に至っていなければならない。化学製品特許の場合、当業者が実施できる程度に至るためには、発明の効果に対する製品中の鍵となる成分の影響を明細書にて十分に開示したうえで、定性的または定量的な実験データを提供して証明しなければならない。
事件紹介
係争特許は耐摩耗磁性粉末の保護を求め、磁性粉末の組成と形状を限定し、磁性粉末がアト マイズ法により製造されることも限定している。明細書の記載によれば、当該磁性粉末は耐摩 耗性がよく、焼結しにくいという特徴を有する。本件は係争特許が特許法第 26 条第 3 項に適合しないとして国家知識産権局によって無効とされた後、特許権者が提起した行政訴訟である。 提訴理由は、本特許の明細書およびその実施例に磁性粉末の調合方法、粒径、形状およびアト マイズ法を用いて製造されたことが記載されており、耐摩耗性向上の技術的効果が既に明細書 に示されているため、本特許明細書は既にその技術案を十分に開示しているからということで ある。
北京知識産権法院は審理を経て、次の認識を示した。本特許の明細書の記載から、本特許が 解決しようとする技術的課題がより優れた耐摩耗性を有する磁性粉末を提供することにあることが分かる。しかし、本特許の明細書における実施例には磁性粉末の一種類の具体的な配合比率しか記載されておらず、磁性粉末中の各成分の作用および効果は本特許の明細書に記載されていない。しかも、本特許の技術的効果を証明できる関連の定性的または定量的な実験データが欠けており、明細書にて言及された従来技術文献との比較も行われていない。そのため、本 特許の明細書に基づき、当業者は磁性粉末の性能に対する各成分の影響を確定できず、ひいては、必要に応じて各成分の具体的な含有量を選択して本発明の技術的効果を実現することが困難になる。よって、特許権者の訴訟上の請求を棄却した。
本件から分かるように、製品の成分が発明の効果の実現に対して鍵となる作用を有する場合、当該製品の調合方法およびその製造方法を開示するだけでは、十分な開示に関する特許法第 26 条第 3 項の要求を満たすには不十分である。特許の明細書では、当業者が必要に応じて各成分の具体的な含有量を選択して発明の技術案を実施できるように、さらに製品の性能に対する各 成分の影響、特に特許の技術的効果に対する鍵となる成分の影響を十分に開示し、定性的または定量的な実験データを提供して証明しなければならない。