中国の特許制度は、特許権の付与、特許の実施、そして特許の保護という3つの基本的な側面から構成されています。
中国の『専利法(特許法)』第1条は、特許制度を実施する重大な目的として、特許権者の合法的権益の保護、発明創造の奨励、発明創造の応用の促進、イノベーション能力の向上、科学技術の進歩および経済社会の発展の促進を明確に掲げており、なかでも特許権者の合法的権益の保護が『専利法』の最も重要な任務とされています。
中国は大陸法系に属し、中国の法律体系は主に4つの異なるレベルの法規範によって構成されています。法的効力の階層としては、憲法、法律、行政法規、地方性法規(自治条例、単行条例、規則を含む)の順に位置づけられます。
特許侵害訴訟は多数の法律・法規・司法解釈に関わり、また人民法院(人民裁判所)が公表する指導性判例(ガイドケース)も含まれます。法律・法規・司法解釈間の関係や、指導案例の役割を理解することは、特許侵害訴訟の戦略を策定し、訴訟に参加するうえで極めて重要です。
本章では、中国における特許侵害訴訟の現状についての紹介と分析、さらに特許侵害訴訟に関する審判制度と適用される法律・法規・司法解釈などの法規範について説明します。
第1節 中国における特許侵害訴訟の現状
1985年4月1日に『専利法(特許法)』が正式に施行されて以来、中国経済の発展、科学技術の進歩、技術開発力の向上、そして特許保護意識の高まりに伴い、特許出願件数は年々増加の傾向を示しています。
特に、2000年の『専利法』第2回改正および2001年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟以降、特許出願件数は急増しました。
『専利法』は、中国における特許を以下の3種類に分類しています:発明特許、実用新案特許、意匠特許。
国家知識産権局の統計公報によれば、1985年の『専利法』施行初年度、中国特許局(1998年に国家知識産権局に改称)は、国内外合わせて14,372件の特許出願を受理しました。その内訳は、発明特許8,558件、実用新案特許5,174件、意匠特許640件です。
2000年には、国内外の出願数は170,682件に達し、内訳は発明特許51,747件、実用新案特許68,815件、意匠特許50,120件でした。
2016年には出願件数が3,464,824件に達し、発明特許1,338,503件、実用新案特許1,475,977件、意匠特許650,344件でした。
特許出願の増加に伴い、特許の認可件数も急増しています。国家知識産権局の統計によると、2016年末時点で、中国では累計2,315,411件の発明特許、5,872,756件の実用新案特許、4,012,485件の意匠特許が認可されています。
また、2017年から2021年の5年間だけで、発明特許の累計認可件数はそれ以前30年間の総計の2倍に達する4,827,838件、実用新案特許は約3倍の15,379,848件、意匠特許は7,044,642件に達しました。
地域別で見ると、江蘇省、広東省、北京市、浙江省、上海市などが特許出願・認可件数で常に上位に位置しています。
目次
📌 訴訟件数の増加と複雑化
特許出願・認可の増加に伴い、特許侵害訴訟の件数も急増し、さらにその複雑性や困難度も増しています。
2008年に『専利法』が第3次改正された際、全国の人民法院が新たに受理した特許事件はすでに4,000件超。
『中国法院知識産権司法保護状況(2015年)』によれば、2015年には全国の人民法院で特許・技術契約関連の民事第一審案件が13,087件に達し、特に先端技術や複雑技術を含む特許関連訴訟が急増しています。
2016年の『中国法院知識産権司法保護状況』では、特許侵害訴訟の受理件数の具体的な記載はなかったものの、知的財産関連訴訟全体の件数が継続的に増加しており、審理の難易度も年々上がっていると報告されています。
特に、複雑な技術事実の認定、巨額利益の配分、公共利益・国家利益・権利者利益のバランスといった課題が顕著になっています。
📌 新たな特徴と分野の拡大
2021年の最高人民法院のデータによれば、近年の知財訴訟には新たな特徴が見られます:
- インターネット分野の発展により、知財侵害の主戦場がネット空間へと移行し、関連案件が増加。
- 新技術・新業態・新ビジネスモデルの急速な拡大により、新たな法律問題や未経験の紛争タイプが登場。
特に、インターネットコア技術、遺伝子技術、情報通信、集積回路、人工知能、プラットフォーム経済などに関する知的財産権訴訟が急増し、技術事実認定・法的解釈の難易度も上昇しています。
📌 行政執行の動向と強化
特許訴訟と同様に、特許行政執行の件数も増加しています。
- 1998年:地方の知識産権局が処理した特許紛争案件は612件(うち特許侵害544件)
- 2000年:802件(うち特許侵害722件)
- 2008年:1,786件(うち特許侵害1,092件、偽造特許660件)
- 2016年:48,916件(前年比+36.5%)、特許紛争20,859件(うち侵害20,351件)、偽造特許28,057件
地域別では、華東・華中地区が最多、華南・東北の伸び率が最速。
例として、浙江・広東・江蘇では1,000件超の行政処理があり、遼寧・湖北・安徽・河南・四川・湖南・河北・海南・寧夏など9省区では前年比100%以上の増加が見られました。
📌 改革後の状況
2017年以降、機構改革により各地の特許行政管理部門は市場監督管理部門に統合され、行政による特許保護がさらに強化されました。
2021年には、全国で取り扱われた知的財産権案件が12万件超となり、そのうち約5万件が特許紛争関連。さらに、法院(裁判所)、検察院、公安など多部門が連携し、より強固な特許執行ネットワークが構築されています。